ユーザーの検索体験を「SEO成果指標」として可視化する方法(概念と準備編)

ユーザーの検索体験を「SEO成果指標」として可視化する方法(概念と準備編)

はじめに

こんにちは、ナイル株式会社でWebアナリストをやっている伊佐敷と申します。普段はWeb解析やユーザー調査、それらに基づくCVR改善などのコンサルティング業務を行っています。

以前当ブログの”SEO=「ユーザーにとって役に立つコンテンツを作る」に対する違和感“という記事にて、弊社渡邉よりこれからのSEOの取り組み方についてナイルの考え方を書かせていただきました。ざっくり要約すると、SEOを単なる「検索ニーズのあるキーワードに対応するコンテンツをいっぱい作って集客増加を狙う」施策と捉えるのではなく、「検索する顧客の体験そのものを最適化する」施策と捉えるべきというお話です。

ではその「検索顧客の体験」をどのように見える化し、改善していけば良いのでしょうか?今回はそれを実現するために、「カスタマーアナリティクス」とよばれる分析改善手法の考え方を応用して、SEOに取り入れる方法をご紹介します。

  • SEOに取り組んでいるが、いまいち成果実感を得られない方
  • コンバージョンや検索流入を指標にしているが本当にそれでいいのかお悩みの方
  • 「SEO大事だとわかっているけど社内の理解や協力を得るのが大変」と悩んでいる方

自社サイトのSEOやアクセス解析・サイト改善・マーケティングに携わっていて、上記のようなお悩みをお持ちの方々にとっては1つのヒントとなるのではないかと思います。

背景:SEOの変遷と顧客の検索体験最適化の重要性

かつてSEOといえば「特定キーワードの順位を向上させる技」として、自作自演リンクによるスパム的手法が広く行われ、そこには「顧客体験」の概念はあまり含まれていませんでした。しかしそういった外部リンク施策に対する検索エンジンからの取締まりが厳しくなる中で、「ユーザーの役に立つコンテンツが大事」という流れが強くなり、ユーザー目線でSEOを考えることの重要性が高まってきました。

更にはRankBrainの導入を含む検索エンジンアルゴリズムの精度向上により、「SEOとは(顧客の)検索体験の最適化」であると語られることも増えてきています。実際に、滞在時間などのユーザー体験指標が検索順位と相関しているという研究も行われています。

参考:SEO、楽しいですか? 実データに見るSEOとUXの関係性と対策 (Web担当者Forum )

一方実態として、「顧客の検索体験の最適化」を明確に意識してSEOに取り組んでいる例は少ないのではないでしょうか。SEOはあくまで検索ニーズの高いキーワードを狙って行う集客施策と捉え、その後のことはCVR改善(CRO)などとして別のものと考えている場合が多いのではないかと思います。

「顧客体験の改善」を目指すカスタマーアナリティクス

「顧客体験の改善」がビジネス成果向上に不可欠であることは想像いただけるかと思いますし、SEOの文脈でもそれが重要になってきているのは前述した通りです。ただしそれが一般に浸透しきっていない1つの理由として、顧客体験の定量化が難しいという点が挙げられるのではないかと思います。それを実現するための1つの分析手法が「カスタマーアナリティクス」です。

カスタマーアナリティクスとは?

カスタマーアナリティクスは絶対的な定義がある言葉ではありませんが、ここではナイルの考える定義を述べます。

まず「アナリティクス」は直訳すると「分析論」であり、ナイルでは「何らかのデータを分析を通じ、ビジネス改善の方向性を探る」取り組みを指す言葉として使っています。そして「カスタマー」は「顧客」を表す言葉です。ここで敢えて「ユーザー(利用者)」ではなく「カスタマー(顧客)」という言葉を使っているのは、「単にWebサイト利用中の人のみではなく、オンライン・オフライン問わず『顧客になり得る人の一連の体験』を分析対象とする」という意味合いがあります。

すなわち、カスタマーアナリティクスは「顧客になり得る人の一連の体験を対象とした分析を行い、顧客体験の改善、およびそれによるビジネス成果の向上を目指す取り組み」と言えます。

カスタマーアナリティクスの考え方をSEOに応用する

このカスタマーアナリティクスの考え方はWebマーケティングの文脈に限らず幅広く使える手法ですが、ナイルではSEOを考える上でもこの手法を取り入れるようにしています。前述したように、SEOにおいて目指すべき「(顧客の)検索体験の最適化」との相性が良いと言えることが1つの理由です。

具体的には大きく2つのメリットがあると考えています。

メリット①:検索エンジンから集客したユーザーをビジネス成果(コンバージョン)に繋げやすくなる

カスタマーアナリティクスでは、ユーザー(未来の顧客・カスタマー)がどのような行動・心理変容を辿っていくかを数値化して表現します。それによりサイト内のボトルネックが可視化され、ユーザーを誘導するためのコンテンツ改善やUI改善といった施策立案とその効果検証がスムーズになります。

メリット②:ユーザーのインサイトが見える様になり、キーワード選びや検索エンジンに評価されるコンテンツ作りのヒントとなる

ユーザーの体験を可視化しないままSEOのためのコンテンツを作成しようとすると、単に検索ボリュームの大きいキーワードに対する表面的な回答を用意することに終始しがちになります。

一方カスタマーアナリティクスの考え方によりユーザー体験が可視化されていると、ユーザーが本当に求める体験が見えやすくなり、単にキーワード単位で考えていたときには見えなかったコンテンツやキーワードの方向性が見えるようになってくるときがあります。

その結果、豊かなユーザー体験を伴う独自コンテンツの作成につながり、検索エンジンからの評価が向上することがあり得ます。(※他にも、「ユーザー体験の改善そのものが検索エンジンの評価に直接影響する」という説もありますが、これについてはまだ確証が得られていない部分がありますので、仮説にとどめておきます。)

具体的なやり方(コンセプトダイアグラム作成)

では、どのようにカスタマーアナリティクスを進めていけばいいのでしょうか。ナイルではまず「コンセプトダイアグラム」とよばれる図を作ることから始めています。ここで言うコンセプトダイアグラムは、カスタマーが最終的にゴールを達成するまでの行動・体験を図示化したものです。

転職エージェントサイトのコンセプトダイアグラムの一例

概念としては「カスタマージャーニー」に近いものですが、「カスタマーの行動ステップを数値指標に落とし込むことを前提としている」 「2軸を用い、2次元の図として表現している」ことが主な違い・特長であるとここでは定義します。

このカスタマー行動の各ステップに対応する施策やコンテンツ、キーワードなどを想定し、更にそれぞれに対応する計測データ指標を定義して分析に活用します。

転職エージェントのコンセプトダイアグラムの一部にコンテンツをプロットした図

このコンセプトダイアグラムを作成しデータ測定に落とし込むことで

  • カスタマーの行動・心理が網羅的に見えてくる
  • カスタマーの体験を改善させるための施策が見えてくる
  • 施策の効果やサイトの課題がデータとして見えてくる

といった効果が得られます。

コンセプトダイアグラムの作成方法

それでは、具体的なコンセプトダイアグラムの作成方法を説明していきます。ぜひご自身のサイトについて考えながら読んでいただけますと幸いです。

  1. ゴール・スタートを決める
  2. 二軸を決める
  3. カスタマーの行動ステップを図示化する
  4. 各ステップに対応するコンテンツ・施策をマッピングする
  5. 対応するコンテンツ・施策に対応するデータ計測指標を定義する

①ゴール・スタートを決める

まずゴールを決めましょう。カスタマーがどのような状態になっていれば理想であるかを定義するつもりで決めると良いです。サービス理念をヒントにするのも良いでしょう。Web上のコンバージョンにとらわれずに、Web以外の要素も含めて考えるのが望ましいです。

(例:転職エージェントのサイトの場合)「転職を成功させ、幸せなキャリアをスタートする」など

次いでターゲットユーザーの初期状態をベースにスタートを設定しましょう。

(例:転職エージェントのサイトの場合)「転職を考え初めたがまだイメージがわかず何をすればいいかもわからない」など

②二軸を決める

コンセプトダイアグラムの特徴の1つである二軸を決定します。スタートからゴールに向かうまでの動きを、独立した二つの軸で表現してみましょう。

(例)

・気持ちの高ぶり×知識の習得
・信頼感×モチベーション
・ハマり度×継続度 etc…

転職エージェントサイトなら「転職イメージ度×自力思考or他力思考」など。

スタート・ゴールと二軸を定義したら、それを下図のように図に反映させましょう。

スタート&ゴール・二軸を反映させた図

③カスタマーの行動ステップを図示化する

続いて、カスタマーの行動・心理変容をステップとして図に書き込んでいきます。下図のようなイメージです。

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図示するときのポイントは下記です。

・ユーザーの行動・気持ちベースの言葉で書く
・細かな画面遷移等にしない
・フローは5~8つくらいでまとめる

どうしても細かなページ遷移などで書いてしまいがちなのですが、そういった細かなくくりよりは、大きく捉えてステップを作成した方が全体感をつかみやすく、データ分析にも活かしやすい形となります。

⑤各ステップに対応するコンテンツ・施策をマッピングする

次いで、各ステップに対応するコンテンツ・施策をマッピングしていきます。カスタマーのステップ遷移を引き起こすきっかけとなるコンテンツや機能、マーケティング施策などのアクションを載せていきましょう。SEO観点の場合は、検索キーワードをマッピングしていくとより良いでしょう。

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⑥対応するコンテンツ・施策に対応するデータ計測指標を定義する

コンテンツ・施策をマッピングしたら、最後にデータ計測定義を行います。コンセプトダイアグラムが単なる概略図ではなく、カスタマーアナリティクスに繋がるものとするために重要な作業です。それぞれのステップに該当するカスタマーはどんな行動をするか、どんな行動をしてほしいかを想像し、データ測定定義を定めます。

 

イベントトラッキングなどアナリティクスツールの機能を使いこなせる人は、カスタマーの行動を詳細に想像して細かな計測定義(例えば「特定のコンテンツ群をみたあとに◯◯ページに遷移して3分閲覧し、特定のボタンをクリック…」など)を行ってみても良いでしょう。ただしそこまで凝らなくても「特定コンテンツの閲覧(読了)」などをシンプルに定義していくだけでも最初は良いでしょう。

コンセプトダイアグラムにデータ取得定義をプロットした図

コンセプトダイアグラム作成時のポイント

  • 一人で考えるのではなく、数人でワークショップを行い、アイディアを出し合いながら作成するのがおすすめです。実際のカスタマーの声などを参考にできると更に良いです。
  • 行動ステップにはWeb上の細かいページ遷移などではなく、カスタマーの行動・心理変容を言葉で表現しましょう
  • 本来のカスタマーアナリティクスにおけるコンセプトダイアグラムは、オンライン・オフライン関係なく顧客の長期的な体験を図示しますが、SEOやサイト改善の文脈においては、コンセプトダイアグラムの範囲をややWeb周りに絞って作成すると使いやすいものができます。(ただし、Webにとらわれない大局的なコンセプトダイアグラムも最初に作り、そこから範囲を絞っていくことをおすすめします。)
  • SEOに目的を寄せるのであれば、各ステップに対して想定される検索キーワードや集客のためのコンテンツなどを主にマッピングしていくのが良いでしょう。

上記の流れでコンセプトダイアグラムを作成します。

最初から一人でよくできたものを作るのは難しいので、チームで何度も試行錯誤しながら作成することをおすすめします。かと言って完璧を求めすぎず、作成することに意義があると考えましょう。

良いコンセプトダイアグラムができていると施策やコンテンツのアイディア、現在の顧客体験の課題などが少しずつ見えてくる感覚があるはずです。この時点でも作成の価値はありますが、カスタマーアナリティクスにおけるコンセプトダイアグラムの真価は、データ分析につなげることで発揮されます。

記事の都合上、データ設定方法と分析改善への活かし方は別途記事にまとめる予定です。まずはコンセプトダイアグラムを作成し、顧客体験の可視化をしてみることをおすすめします。

まとめ

今回は顧客体験を分析・改善するための手法「カスタマーアナリティクス」およびその具体的な実践法である「コンセプトダイアグラム」について紹介しました。

私たちが考えるこれからのSEOは、顧客体験とビジネス成果両方の最適化を狙うべきものであり、その為にカスタマーアナリティクスの取り組みは相性が良いものと考えています。こういった考え方を部分的にでも取り入れていくことが望まれるでしょう。

最後に:Webアナリスト仲間募集!

今回はカスタマーアナリティクスの考え方を用いたSEOのお話をしましたが、普段僕たちWebアナリストはSEOの分析に限らず、アクセス解析やユーザー調査、ヒートマップ分析などを用いたユーザビリティ改善、CVR改善などを行っています。

また通常の分析改善業務の他にも、デジタルマーケティング戦略顧問である清水誠氏とディスカッションしながらカスタマーアナリティクスの考え方をメンバーにインストールしてサービスに落とし込んだり、Tableauを用いた分析レポートを作成したりと、コンサルティングチームの分析力を上げていくことに日々挑戦しています。

データから仮説を立て施策立案するのが好きな方、様々なWebサイトのデータをみて視野を広げたい方、新しい分析手法確立に挑戦したい方、分析力を活かしてアナリストチームを一緒に作っていきたい方などは是非、こちらをご覧下さい。

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著者紹介

伊佐敷 一裕(いさしき かずひろ)
伊佐敷 一裕(いさしき かずひろ) アナリスト(Webサイト分析調査、ユーザーインタビュー・行動観察調査)

東京大学卒。SEOコンサルタントとして30社以上のSEO設計や運用改善を手掛けた後、数字の解読力や洞察力を活かしてアナリストに転向。アクセス解析や行動観察などの定量調査と定性調査を併用した分析と改善を担う。ユーザーとマーケティングの視点を持ち合わせた実践的なコンサルティングで、多くの改善実績を上げている。

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