AKBの三原則【コンテンツづくりの三原則 第14回】

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AKBの三原則【コンテンツづくりの三原則 第14回】

オウンドメディア運営において、コンテンツづくりは最大の肝です。「コンテンツづくりの三原則」では、毎月1つのコンテンツづくりのテーマや目的を取り上げ、そこに紐づく3つのトピックを深掘りしていきます。

第14回は「AKBの三原則」。コンテンツを制作するにあたって意識しておきたい「意外性」「多様性」「共有性」の三原則について解説します。

予定調和を裏切る「意外性」

「拘束されているときにずっと『不協和音』という日本語の歌の歌詞が、頭の中に浮かんでいました」

そう言ったのは、香港の若き民主活動家、アグネス・チョウ(周庭)です。「不協和音」を歌うのは、アイドルグループの欅坂46(現・櫻坂46)。アイドルの曲にはあまりない、体制、権力、大人に抵抗する若者の怒りや苦悩を、激しいビートにのせて歌ったプロテストソングです。

2017年のNHK紅白歌合戦で、欅坂46のメンバーがその激しい踊りで過呼吸になって倒れたのをご存じの方も多いと思います。「不協和音」の振付師は、世界的ダンサーとして有名なTAKAHIRO(上野隆博)によるもの。その斬新で激しい踊りは、およそアイドルグループの振りつけとは思えない、全身で怒りを表すような力強い動きが特徴です。

欅坂46に限らず、AKB48をはじめとする秋元康が総合プロデュースするAKBグループや坂道シリーズといったアイドルグループは、常にさまざまな新しい実験的試みを仕掛けて、常に私たちを驚かせてくれます。

これまでのアイドル像をくつがえす数々の試み

秋元康は、著書「秋元康の仕事学」(NHK出版)で、「どこまで意外性が持続するかが肝なのです。予定調和が裏切られたときに、人はおもしろいと思うのです」と述べています。

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歌、ダンス、衣装、照明、場所、演者を常に変え続け、観客と同化したパフォーマンスを一度でも見たことがある人は、彼女たちの姿が従来のアイドル像のイメージを次々と破壊していると感じたのではないでしょうか。
地方やアジア各都市へのフランチャイズ展開をはじめ、握手会、選抜総選挙、じゃんけん大会、雑誌といった特定のメディアジャックなどなど、「AKB商法」と揶揄されることも多いビジネス戦略。それは、「不協和音」で歌っているように、「既成概念を壊せ! みんな揃って同じ意見だけではおかしいだろう 意思を貫け! ここで主張を曲げたら生きてる価値ない」と、従来のアイドルの定義をことごとく壊し、エンターテインメントの新しい形を生み出しています。

かつて1980年代に、テレビ番組の企画から「おニャン子クラブ」というアイドルグループを生み出した秋元康ですが、その20年後、「会いに行けるアイドル」というコンセプトで、舞台をあえてテレビから秋葉原という「オタクの聖地」の劇場に移しました。
テレビを頂点としてきたアイドルの世界で、「なぜわざわざ劇場で?」という意外性です。そもそも、ライブハウスや区民会館などを拠点にする活動は、アイドル低迷期の1990年代に、資金力の乏しい弱小事務所が始めたビジネス。それは、「地下アイドル」と呼ばれるように、あくまでも売れないアイドルが地道に活動する市場でしかありませんでした。そのニッチな市場に新風をもたらし、革命を起こしたのがAKB48だったのです。

また、アイドルは寿命がとても短いという宿命を負っています。その活躍期間だけを見れば、プロスポーツより厳しい世界といえるかもしれません。2021年4月現在、AKB48では柏木由紀、乃木坂46では新内眞衣が29歳で最年長となっています。

そういう意味でアイドルグループは、花が咲き誇った頂点で「卒業」するコンテンツです。ファンが飽きるのが早いのもアイドルの宿命です。それをグループ全体としては1期生、2期生、3期生と、絶えず新人を送り込むことで下剋上を促し、また各グループをさらに細分化し、グループ間でメンバーをシャッフルすることで常に新鮮さを保っています。こうして、絶え間なく新陳代謝を繰り返すことで、そのブランド力を維持し続けています。

ファンのニーズに応じた「多様性」

昔のアイドルはシンプルでした。娯楽も今ほど細分化されておらず、老若男女が知る国民的アイドルがいたし、誰もが口ずさめる大ヒット曲もありました。しかし、今はエンターテインメントの多様化が進み、いわゆる「かわいいだけの」アイドルは通用しません。

現在、国民的アイドルといえば、AKBグループ・坂道シリーズの一人勝ち、寡占状態といっていいでしょう。では、なぜ一人勝ちしているのでしょうか。
よく、「AKB48にはあまりかわいい子がいない」という声を聞きます。しかし、これもコンテンツの多様化に沿った戦略といえます。AKB48の公式の活動方針は「会いに行けるアイドル」とされていますが、トップモデルのような美貌とスタイルの女の子が集まっているわけではありません。

AKBグループ・坂道シリーズのオーディションでは、容姿や歌唱力はあまり重要な基準になっていないともいわれています。毎回400〜700倍ともいわれる競争率のオーディションで、歌の上手な子だけが集まるわけではありません。実際に、とてもプロで通用するとはいえない歌唱力の子が多いのも事実です。むしろ、音痴であることをウリにしている子さえいます。
だから、選り抜きのスターを集めるというより、「かわいい」「クール」「お嬢様」「田舎者」「いじられ役」「ぶりっこ」「歌がうまい」「踊りがうまい」「性格が悪い」「おもしろい」「やさしい」「人見知り」「男勝り」「天然」「おバカ」「どんくさい」など、緻密に計算して学校のクラスのようにグループの多様性を図っているようでもあります。

そして、彼女たちが出演するテレビの冠番組では、毎回オーディションのような形式で、各メンバーにいかにキャラ立ちするかを競い合わせています。視聴者は、何十人という女の子たちが競い合う姿を楽しみながら、どの子が自分の推しメン(推薦するメンバー)なのか、品定めしながらファンになっていきます。
最初は自身のキャラクターの打ち出しに戸惑う子もいますが、回数を重ねるうちにMCを務めるベテランのお笑い芸人によって個性を引き出されたり、鍛えられたりしながら成長していきます。

 

「AKBINGO!」(日本テレビ/Hulu)
「AKBINGO!」(日本テレビ/Hulu)

つまり、「人数が多いのでかわいい子がそろえられなかった」のではなく、意図的にニッチ市場を創造し、多様性を図っているのです。だからこそ、そこから「単推し」「箱推し」という言葉も生まれたのでしょう。
ユーザー(観客)のコンテンツ消費の多様化に伴って、今日のエンターテインメントはその種類も増えて細分化しているため、旧来の「ただかわいい女の子」というだけでは、ファンの消費欲求を満たすことはできなくなっています。

例えば、欅坂46で、加入以来ずっとセンターを張り、2020年に突如脱退をした平手友梨奈は、「会いに行けるアイドル」とはかけ離れている「笑わないアイドル」といわれた孤高の存在でした。その存在感とカリスマ性は、むしろ山口百恵や中森明菜といった、昭和のアイドルを彷彿とさせる雰囲気さえありました。

また、欅坂46で最も歌唱力が高いといわれていた小林由依と今泉佑唯(現在は卒業)が組んだ「ゆいちゃんず」というユニットは、70年代フォーク世代の琴線にふれるようなギターの弾き語りがウリの楽曲を披露していました。

乃木坂46には、秋元真夏というもっぱらバラエティ(コメディ)担当となっている子がいますが、彼女は歌唱力、ダンス力ともにワーストランキング上位の常連で、「かわいいランキング」ではいつも圏外。図々しい性格でメンバー間でも疎まれキャラを確立しています。
しかし、人気ランキングは常に5位以内のポジションを確保(特に子供からの人気が高い)。2021年で10年目を迎える、息の長い活躍をしています。

 

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NMB48のエースだった山本彩(現在は卒業)は、バラエティ番組で突出したコメディの才能を発揮し、そのままバラエティタレントの道を突き進むと思いきや、卒業後はシンガーソングライターとして独り立ち。

 

「げいにん!」(日本テレビ/Hulu)
「げいにん!」(日本テレビ/Hulu)

SKE48の古畑奈和は、つぶらな瞳が印象的な堀北真希に似た子で、AKBグループ全体でもずば抜けて高い歌唱力、ダンス力、演技力を持ちながら、センターを担うまで8年かかったという苦労人です。

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多様性によって国民的アイドルのブランドを確立

AKBグループ・坂道シリーズには、こういったロングテール的存在の多様なメンバーが数多くいます。そんな多様性を確保しながらブランドを確立し、今や子供や若者だけでなく、ファンであることを公言する政治家や学者も現れるほど、老若男女に支持される唯一無二の国民的アイドルとなったわけです。

AKBグループ・坂道シリーズの多様性は、日本国内にとどまらず、世界に拡散しています。
前明治大学学長で演劇評論家の土屋恵一郎は、NHKの人気番組「100分 de 名著」でこう言いました。

「秋元康はまさに世阿弥ですよ。常に新しいもの…例えば、AKBの初期のものはインドネシアで歌っている。インドネシアなら珍しい。AKBの初期のものは、いろんな場所で歌っていれば新鮮さが持続される」

今、AKBグループは、日本国内の6グループとアジア諸国の8グループ、日本国内外すべて合わせて600人以上のメンバーが在籍し、各地方、各国の文化に合わせた多様なグループ群を形成しているのです(2021年4月現在)。

AKBグループ・坂道シリーズを応援することは、ショッピングモールあるいはテーマパークに遊びに行く感覚に近いかもしれません。各々、好みのショップで買い物をしたり、好きなアトラクションに並んで乗ったりするように、多様なグループやメンバーの中から自分のお気に入りを探せるというわけです。

観客を巻き込む「共有性」

AKBグループ・坂道シリーズのエンターテインメントビジネスの最大の特徴は、「会いに行けるアイドル」というコンセプトが象徴するように、ファンと時間と場所を共有することにあります。

今はコロナ禍で、ファンにとってはアイドルに会えない日が続きますが、握手会、総選挙をはじめ、ファン交流イベントが日本国内にとどまらず、アジア全域で開催されてきました。みずからの主催イベントに限らず、ジャカルタ「絆」駅伝、ベトナム「絆」駅伝といった海外で行われるようなスポーツイベントなど、よりファンとの距離を縮めるイベントにも参加しています。
人気が高まるにつれてファン層も拡大し、直接劇場公演を観覧できる機会が少なくなっていることから、これまでの単に「会いに行けるアイドル」から「会いに行くアイドル」へと進化しているのです。

かつて、「スター」はその言葉のとおり、遠く天上に輝く手の届かない存在でしたが、今日のアイドルは親近感が人気獲得の重要な要素のひとつになっています。遠くから眺めるだけではなく、自分たちで育て、直接ふれ合える存在に。握手会も選抜総選挙もその象徴的イベントです。また、ブログやSNSでプライベートの一面を見せたり、ファンと交流したりするのも当たり前になってきました。

熱狂的なファンと近い存在になっているアイドルを、企業が見逃すはずもありません。AKBグループ・坂道シリーズは、これまで数多くの大手企業のイメージキャラクターやCMキャラクターに起用されています。また、一方通行な広告の枠を超えて、トヨタ自動車は2014年から2021年までオフィシャルスポンサーとしてAKB48 Team 8の活動を全面バックアップしてきました。

 

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ユーザーの共感を得るための「AKBの三原則」

2020年10月、コロナ禍の影響で延期されていたファンと交流するイベントの代替イベントとして、AKB48は、千葉市内でオンラインお話し会と配信ライブを開催。メンバー32人が参加し、オンラインでファンと交流しました。最年長メンバーの柏木由紀は、「ファンから企画を募集したい。オンラインでも何か楽しいイベントができれば」と話し、今後もファン参加型イベントをやっていくことを示唆しています。

ファンダムの三原則」でも述べたとおり、コンテンツの提供者はファンとの接点を大切にし、ファンが気軽に参加できる場を作り、思いを共有し、企業や商品ブランドの体験を増やしていくことで、共感を強くしていきます。
ファンミーティングやイベント、オンラインのコミュニティなどは、双方向性コミュニケーションに欠かせない施策です。ユーザーの共感を得るためには、商材を売ることよりも、ユーザーとのコミュニケーションやコミュニティを構築することを重視しなければなりません。

既存市場のシェアを拡大するにせよ、新しい市場を開拓するにせよ、パイは有限です。その厳しい時間と場所と機会の争奪戦に勝ち残るためには、AKBグループ・坂道シリーズが最も重視してきたような「意外性」「多様性」「共有性」を包括したコンテンツが欠かせません。コンテンツに、常に飽きさせないための新鮮な驚きと意外性、多様化する社会に対応した価値観、エンゲージメントを高める共有性がなくては、ユーザーはついてきてくれません。

そして、これらAKBビジネスのすべてに共通するのは、「生存競争の厳しい芸能社会を勝ち抜くための戦術」をリアルタイムで可視化し、観客を巻き込みながら観客といっしょに体験を共有していることでしょう。

秋元康は、著書「秋元康の仕事学」で言います。

「みんなが行く野原に野いちごはない。みんなが『あっちには何もないよ』とか『あそこは遠いよ』『向こうは蛇が出るよ』『その先には崖があるよ』とか言っている場所にこそ、みんなが知らない野いちごがある。何かのブームがあった時にそこに群がっても、もう何もない」

 

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