スマートニュース佐々木大輔氏に聞く・ネットメディアの変遷と未来の行方

スマートニュース佐々木大輔氏に聞く・ネットメディアの変遷と未来の行方

スマートニュース株式会社・執行役員の佐々木大輔氏は、21世紀のネットメディアの生き証人だ。
日本初のブログサービス「ココログ」の立ち上げに参画し、ウェブディレクターとしてさまざまなサービスを担当した経験から、ライブドアの「livedoor ディレクターブログ」を企画・運営。LINEでは執行役員として、LINEファミリーアプリの普及に尽力。現在は、スマートフォン用のニュースアプリ「SmartNews」を提供するスマートニュースでメディアパートナーとのアライアンスに携わる。

2000年代初頭から始まったブログ、SNS、アプリの最前線を走り続けてきた佐々木氏は、激変するネットメディアで何を見て、何を試みてきたのか。果たして、彼の考えるメディアは、どこへ向かおうとしているのか。企業がメディアを持つのは、どんな意味を持つのか。

ネットメディアの転換期に立ち合ってきた佐々木氏に、ネットの変遷と現在、そして未来の行方について語ってもらった。

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日本初のニュースアプリとして誕生した「SmartNews」。日米で4,000万以上のダウンロード数を誇る(2019年8月現在)。

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社長がみずからユーザーにメッセージを送る衝撃

――佐々木さんは、これまでネットメディアの大きな転換期に立ち会ってきています。最初に、ネットメディアの転換期だと思ったのはいつですか?

僕は、2003年にウェブ制作会社に就職して、そこでニフティの「ココログ」というブログサービスのお手伝いをしていました。そのとき、ニフティの古河社長が、社長ブログを始めたことに衝撃を受けたんです。社長がネット上で直接ユーザーにメッセージを送ることっておそらく日本で初めてで、衝撃的でしたね。

(1)

 

――その後、ライブドアに転職したのはなぜですか?

エンジニアリングに投資している会社じゃないと、伸びしろがないと思ったんです。ウェブサービスを直接作って、そこにユーザーを集めていくことがしたかった。自分が作る側にいたいと思ったとき、ライブドアは当時、エンジニアがたくさんいたので転職を決めました。

 

――ライブドアでどんな業務に携わることになったのですか?

livedoor Blog、livedoor Reader、livedoor Clip、nowa、ロケタッチなどですかね。livedoor ディレクターブログ(後にLINE Corporation ディレクターブログ)の立ち上げにも参画しました。

 

――livedoor ディレクターブログは、実質上、ライブドアという会社のオウンドメディアでしたね。

そうですね。企業ブログの役割を果たしていたと思います。livedoor ディレクターブログを見て入社したという人は、結構いましたからね。livedoor ディレクターブログが正式にスタートしたのが2007年で、オウンドメディアという言葉が出てきたのは2011年あたりですから、かなり早かったと思います。

でも、オウンドメディアという名前が浸透してきてからは、「オウンドメディアとはこういうものだ」って定義されて、かえって窮屈になった気がします。オウンドメディアの使われ方自体が、宣伝ツールのひとつみたいな感じになってしまいましたよね。

 

――livedoor ディレクターブログを始めたきっかけは何だったのですか?

元々は採用目的でした。当時は、ライブドア事件の影響もあって、エンジニアやウェブディレクターを増やしたいと思っても、誰も来てくれない。だから、「こんな仲間とこんな仕事をしているよ」って発信していきたかったんですが、ただ発信しても誰も見てくれないし、説得力もないと思ったので、技術やノウハウ、ツールを紹介しました。あとは、社内に埋もれているデータをオープンにして、読者に使ってもらうこともしていたんです。

 

――まさに、ユーザーファーストのアドボカシー・マーケティング(※1)の先駆けですね。

社是が「Open & Share」だったことと、オープンソースのコミュニティやカルチャーが強い会社だったからできたのだと思います。

本来であれば企業秘密にあたるような情報も、みんなで共有していくことに対して、非常に理解が得られる会社だった。いまでは信じられないようなオープンさでしたね。2006年頃は会社の評判が地に落ちていたから、怖いものなしっていう感じだったかもしれません(笑)。

※1 アドボカシー・マーケティング:「支援」「擁護」などの意味で、顧客との強固な信頼関係を築くことを目的に、顧客の意向を最優先し、顧客本位で接するマーケティング手法のこと。

情報テクノロジーを極めたその先にあるもの

――ライブドアがNHN JAPANに買収され、社名もLINEに変わるわけですが、ご自身の仕事に影響はありましたか?

(3)

 

買収されたときは、「ハンゲーム」「NAVER」「livedoor」という、3つのサービスブランドがありましたが、LINEというヒットサービスが出たことで体制が変わり、LINEにフォーカスしていくようになりました。2012年以降は、LINE系のサービスもだんだんと担当するようになったという流れですね。

 

――そのときに、ご自身で次に「こんなことに挑戦してみたい」という思いはありましたか?

そのころはLINEが急成長しているときで、あまりそういうことを考える余裕もなかったですね。サービスや組織を拡大するスピードがすごく速かったので。むしろ、組織のマネジメントに興味がわいたということはありました。

 

――今度は、スマートニュースに移ったわけですが、次は何を求めていたのですか?

SNSやソーシャルグラフ(※2)を通じて情報が運ばれるということに、あまり魅力を感じていなかったんです。だから反対に、アルゴリズムで情報を届けるというサービスをやりたかったんです。
スマホの普及によってSNSがあらためて台頭してきた2012年頃、「Twitterのタイムラインのほうが、いろいろな情報が得られるじゃん」「ソーシャルグラフ最高だぜ!」という時期が何年か続きました。

でも僕は、単なる人の噂話の拡張版みたいなSNSによる情報取得が、情報技術の革命の果てなわけがないと思っていたんです。オープンなインターネットの情報テクノロジーを極めた先に、どのような情報環境、メディア環境ができるかということに昔から興味があって、そこを突き詰めていきたいと思ったのがきっかけでした。

LINEのような急成長する組織にいればおもしろいし、アプリケーションが人の生活を変えていくのは、とてもエキサイティングでした。ただ、初めてブログが登場したときのような、「情報流通に革命が起こる!」という興奮の渦中にいたいと思ったんです。SNSのように人が情報を運んでくるしくみではなく、情報が情報単体で評価されて配信されるほうがエキサイティングだと思っていて、それを今やっているのがスマートニュースなんです。

※2 ソーシャルグラフ:ウェブやSNS上の人間関係や、つながりを意味する概念。または、それを図式化したもの。フォローや「いいね!」「like」といった、情報を公開したり共有したりする機能で形成される。

転換期となった9.11と3.11

――ネットメディアの最大の分岐点はどこにあったと思いますか?

近年では、やはり2011年の東日本大震災だと思います。あのとき、電話はつながらなかったけど、Twitterでは連絡がとれた。これは、2つのことを意味しています。

ひとつは、電話網は信頼できなかったけど、IP網は信頼できたということ。もうひとつは、メディアの発表する情報より、SNS経由の情報のほうがユーザーの需要に応えていたということ。あの瞬間、一気にネット経由での情報の信頼性についてのコンセンサスが出来上がったと思います。そして、3.11の3ヵ月後に、LINEが登場するわけです。

(4)

 

その前だと、2001年の9.11(アメリカ同時多発テロ事件)ですね。マスメディアの機能がほぼ麻痺したとき、個人が書くブログが頼りにされた。そのときに、UGC(ユーザーが生成したコンテンツ)の価値に対して、コンセンサスができたんです。

9.11も3.11も、インターネット上の情報やSNS経由の情報に対する信頼性が高まる方向にパラダイムが変化した。じゃあ、「次は何なのか?」と考えると、今度は情報自身によって情報が整理されたり、人に届いたりする方向に行くのかなと思っています。2016年のトランプ大統領登場以降、ケンブリッジ・アナリティカ社が何をやっていたのか明らかになるにつれて、SNSで情報を届けることの限界が見えてきましたよね。ネットメディアに対するパラダイムが再び変わりはじめていると思います。

カギを握るパーソナライズド・ディスカバリー

――「情報自身によって情報を整理する」とは、具体的にはどんなことをしていくのですか?

スマートニュースでは、「パーソナライズド・ディスカバリー」と呼んでいますが、その人に合わせて最適化しつつ、さらに興味や関心が広がるような、発見があるコンテンツの配信を目指しています。

例えば、猫の記事を1回見たら、猫ばかりが並ぶようになるわけではない。偏った情報だけ配信するのではなく、その人の視点や興味関心が広がるように「あなたにおすすめ」という形でトップ画面の下のほうに、その人に向けた記事を出しています。ユーザーはそもそも多様ですから、多様なものをそのまま届けられるのがいい。コンテンツ制作者は流行りのミームにわざと乗るなどといった、本来は必要ない工夫をすることなく、コンテンツ本来の多様さを維持したままでいられると思うんですよ。 つまり、SEOやバズるための工夫をことさらしなくてもいい、ということですね。情報自身によって情報を整理するというのは、その情報が本来もっている質や多様さを維持したまま、それを必要な人にそれを送り届ける、というようなことです。

最近読んだ「スリップの技法」という本で、どこか共通点を感じました。著者の久禮亮太さんはフリーの書店員で、彼は本が買われたときのスリップをまとめて、その日のうちに見返すそうです。それによって、お客さんがどんな本を買ったのかという情報が頭に入り、いろいろなペルソナが分類化されているんですよね。
しかも、そのペルソナがF1、F2みたいなざっくりしたものではなく、一つひとつあだ名がついている。そのパターンが数百種類もあるんです。それぞれのペルソナを頭に浮かべながら、毎日書棚を作っているそうですが、すごいことをやっている人がいるもんだなと思いました。

 

――オンラインであれば、ペルソナも細分化できて無限に広がりそうですね。

まさにそういうことにチャレンジしてますし、そうじゃないとおもしろくない。RTが多いのがたくさん回ってくるだとか、「いいね」が多いのが回ってくるだとか、主にそういう方法によってしか情報を届けられないSNSと違ったところが、すごくエキサイティングだと思っています。

 

――パーソナライズド・ディスカバリーは、Amazonのレコメンドとどう違うのですか?

よく「良いコンテンツとは何か?」と問われることがあるんですが、それって受け取る側の体験によると思うんですよね。

(5)

 

例えば、60代の方だったら、今でもロックが最高だと思うかもしれないし、今の20代ならヒップホップのほうが最高だって思うかもしれない。そこで、どっちが音楽的に優れているかって議論しても無駄で、結局その人が若いときに聞いた音が最高という話になる。本とか音楽とかのコンテンツって、単独で良し悪しは決まらない。受け取った人がどう体験するかですよね。

例えば映画でも、ただ類似の作品を並べられたり、「世界の名画300本」ってすすめられたりしても、「知らんがな」ってなる。人は、適当に借りたB級映画に驚いたり、一人暮らしのときにたまたま深夜に流れていた映画に感動したり、勇気をもらったりするじゃないですか。そういう偶然の体験が人を幸せにするし、自分だけの忘れられない思い出になる。
そういう体験をネットで作らない限りは、現実の雑なコピーみたいなことで終わってしまうと思うんです。

オウンドメディアはしくみを作ることではなく、コミュニティをデザインすること

――近年、オウンドメディアから撤退する大企業も出てきて、うまくいっていない状況が目立ちます。資金を注ぎ込んでPVを稼いでも、肝心のエンゲージメントになかなか結び付かない。

オウンドメディアという言葉が出てくる前と後では、SNSの普及の違いがありますよね。そしてスマホの普及とSNSの普及はリンクしている。前からSNSはあったけど、スマホの登場ですごく普及しました。スマホ以前は、企業はユーザーと結び付くのが難しかったがゆえに、より上質なコンテンツを発信することが、信頼性とエンゲージメントを強めたと思うんです。

でも、今はユーザーにとっては、何かとつながっているのが当たり前の状態。だから、無理にエンゲージメントを強めようとしても、嘘臭さのほうが先立ってしまう。企業が出す情報の中に、ユーザーとつながりたいという下心を感じずにはいられない。オウンドメディアはすごく難しい状況にあると思います。

 

――下手にユーザーに向けて商品やサービスに結び付けようと考えないほうがいいということですか。

むしろ、つながらないと思ったほうがいいというか、純粋にコンテンツ単独の価値にフォーカスしたほうがいいような気がします。今はユーザーの感性が尖っているというか、すぐ企業の下心を見抜くじゃないですか。

僕は、長くUGCに関わってきたから、会社の組織内でも似たようなことをやります。社員が作りたいと思うものを、うまくピックアップする。コンテンツを作りたくなるコミュニティデザインのほうが大事なんですよね。

例えば、オウンドメディアをやるにしても、トップダウンで「あれをやりなさい、これをやりなさい」でコンセプトを下ろすのではなく、コンテンツを作る人が作りたい気持ちになるようなデザイン、コミュニティマネジメントをするってことなんです。僕自身は、今はコンテンツを作っているわけではないですが、作る上で気を付けているのは、そのコンテンツを作る人の、コミュニティをデザインすることです。

(6)

 

――発信する側がそうでないと、受け手側にも伝わらないですよね。会社にあるコミュニティが、外に広がっていくイメージでしょうか。

そうなればいいですよね。そうじゃないと、誰かが抜けたらオウンドメディアは継続できない。それは、オフィスづくりでも、サービスでも同じだと思います。

 

――オウンドメディアを始めたいという人、もしくは今運営していて悩んでいる人たちにアドバイスをお願いします。

良くも悪くもメディアって、会社の外にも中にもすごく影響力を持ってしまう。自分が想像もしなかった受け取られ方をして、思わぬ影響力を持ってしまうこともある。それは、外に向けてだけじゃなくて、中の人をどう巻き込むかっていうことでもあるんです。メディアがあることで、社内の人がオウンドメディアを意識するんですよね。

メディアをやるって、自分以外の視点ができるということなんです。企業のオウンドメディアでも、企業の人格、メディアの人格ができる。その目で会社の中のおもしろいことを探したり、普通のことをおもしろくしようという気持ちがみんなの中で働いたりするのだと思うので。

僕は、これまでUGCの仕事がメインだったので、それが当たり前だと思ってやってきました。人に話を聞いてもらうには、トップダウンで命令をしたり、一方的に情報を発信したりするのではなく、そういうコミュニティや空気を作る。中の人だろうと外の人だろうと、そうでなければ誰も信じないじゃないですか。この人についていこうとか思わない。オウンドメディアの役割も、同じことだと思います。

 

佐々木大輔(ささき だいすけ)
株式会社インフォバーン、株式会社ライブドアからLINE株式会社執行役員(エンターテイメント事業部担当)を経て、2017年11月、スマートニュース株式会社に入社。前職では、LINE LIVE、LINE BLOG、livedoor Blog、livedoor Readerなど、CGM(Consumer Generated Media)領域のサービス、および、エンターテイメント事業を中心に多数のサービスを担当。スマートニュースでは、SmartNewsのメディア事業開発、およびその担当部門統括を担う。

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編集者情報

大澤 心咲
大澤 心咲
新卒でアクセンチュア株式会社を経て、2018年ナイル入社。
コンサルタントとして大手企業SEO戦略策定・コンテンツマーケティング支援を担当。
現在はナイルのマーケティングとセールスの統括マネージャーとして従事。
著書:「ひとりマーケター成果を出す仕事術

監修者情報

ナイル編集部
ナイル編集部

2007年に創業し、約15年間で累計2,000社以上の会社にマーケティング支援を行う。また、会社としても様々な本を出版しており、業界へのノウハウ浸透に貢献している。(実績・事例はこちら

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