世阿弥の三原則【コンテンツづくりの三原則 第16回】

世阿弥の三原則【コンテンツづくりの三原則 第16回】

オウンドメディア運営において、コンテンツづくりは最大の肝です。「コンテンツづくりの三原則」では、毎月1つのコンテンツづくりのテーマや目的を取り上げ、そこに紐づく3つのトピックを深掘りしていきます。

第16回は「世阿弥の三原則」。コンテンツを制作するにあたって意識しておきたい「秘すれば花」「初心忘るべからず」「離見の見」の三原則について解説します。

秘すれば花:珍しさや意外性が感動を生む

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世阿弥は、日本の伝統芸能のひとつである「能」の大成者です。約600年前、室町幕府3代将軍、足利義満の庇護のもと、それまで各地で催されていた猿楽や田楽といった芸能を、能という芸術に進化させた功労者として知られています。
その世阿弥による、能の極意をまとめた秘伝の書が「風姿花伝」です。「風姿花伝」は能に限らず、芸術全般、ひいては現代のコンテンツ制作やビジネスにおいても多くの示唆に富んだ名著として、今日も多くの人に読み継がれています。

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「風姿花伝」では、「花」という言葉が重要なキーワードとして、さまざまな意味で使われています。中でも、「風姿花伝」を理解する上で、とても重要なカギを握るのが「秘すれば花」という言葉です。誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」という一節には、「隠しているものは、本当はたいしたものではない」という意味が込められています。芸道の秘伝は、「他人に知られないことで最も効果を発揮する」と世阿弥は述べています。
秘伝は、種明かしをしてしまうと、実は必ずしも深遠なものではない。手品といっしょで、すべてを明らかにしてしまうと興ざめしてしまうということです。反対に、誰もそのからくりに気づいていなければ、珍しさ、意外性によって感動を生むことになります。すべてを見せずに、一部を象徴的に表現することによって、観客の想像を膨らませる一種の術だといえるでしょう。

つまり、どんなに画期的な試みでも、事前に知っていれば驚きはありません。重要なのは、「感動をさせるからくり」を観客に知られないこと。予想もしていなかったときに、ふと予想外のことが起こると観客は驚き、感動します。

観客があらかじめ「何か珍しいものが見られる」と期待していたら、意外性の効果はそれほど高くありません。「秘すれば花」は、観客に知られることなく使ってこそ、初めて効力を発揮することを意味します。

「風姿花伝」自体が、明治時代を迎えるまでの500年ものあいだ、ずっと公にされなかったのも、「秘すれば花」という強い思いがあったからなのかもしれません。

「幽玄」はコンテンツに価値を与える

「秘すれば花」を象徴する理念に「幽玄」があります。幽玄とは「奥深くて、計り知れないこと。趣が深く味わいが尽きないこと」という意味を持ちます。音曲(おんぎょく)の美しさ、美しく静かに舞う姿などが幽玄です。元々、世阿弥が属する猿楽と呼ばれる芸能は、ものまねの芸能だったのですが、猿楽にその幽玄の美を取り入れたのが世阿弥の能だったのです。

また、家元制の発案によって、幽玄という美の価値はさらに神秘化され、権威づけられました。こうして、能のブランドイメージが確立されたのです。能は、謡(うたい)、舞、楽器の演奏、豪華な衣装など、各要素の「美」を結集した総合芸術に進化させることで、ほかの芸能とは異なった独自の価値を生むことにつながったのです。

幽玄が意味する「奥深くて、計り知れないこと。趣が深く味わいが尽きないこと」は、コンテンツに高い価値を付与する大切な条件です。今日の私たちが価値の高いコンテンツの条件として挙げるおもしろさ、珍しさ、意外性、独自性などは、幽玄なくして成立しません。

「風姿花伝」には、「花とおもしろきと珍しきと、これ三つは同じ心なり」という一節もあります。これは、「花を秘する」ことで、観客は「珍しさ」と「おもしろさ」を発見し、「花」と「珍しさ」と「おもしろさ」の3つはまったく同じものになるといっているのです。

初心忘るべからず:初めの気持ちを忘れないようにする

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「初心忘るべからず」は、日常的によく耳にする言葉です。文字どおり「初めの頃の未熟な考えや気持ちをいつまでも忘れるな」という意味ですが、勉強やスポーツや仕事などで、慣れてきて慢心になりがちなときに戒めの言葉としてよく使われます。

「初心忘るべからず」は、能における演者の年齢の、その時々の最も旬の演技を常に忘れないようにと説いています。世阿弥は「風姿花伝」の第一章で、7歳から50歳以上までを7段階に分け、年齢に応じた練習方法や心得などについて言及しています。
7歳頃の子供にある自然な美しさを花の原型としました。その花のつぼみが徐々にほころび始め、花が咲き誇り、最後には散る。世阿弥は、若さが創り出す「花」は一時的なものだが、歳月を経てもなお失せないものが「まことの花」だと説きました。この「まことの花」を身につけることこそ、世阿弥の芸が目指したものだったのです。

コンテンツマーケティングにおける「初心」

「初心忘るべからず」という戒めは、コンテンツ制作においても非常に重要な教訓です。特に、オウンドメディアの運営は、長期戦略のマーケティングで、結果が出るまで時間がかかります。長期戦ゆえに、ネタ切れ、投資対効果、社内圧力、売上低迷、制作費やリソースの確保など、難題が次々と立ちはだかります。
ですから、コンテンツマーケティングを行う理由と目的を、最初に明確に設定しておく必要があるのです。ゴール設定をきちんと決めないで走り出すと、途中で頓挫することになってしまいます。

コンテンツマーケティングは、認知獲得や集客をメインとした広告とは違います。最優先されるのはユーザーとの信頼関係の構築です。そのためには、時間をかけて継続的にコンテンツを届ける必要があります。
一過性の広告と違って、コンテンツが有益である限り、その役割を終えることはありません。逆にいえば、永遠に残ることを前提に価値のあるコンテンツを継続的に作り続ける必要があるということです。

コンテンツマーケティングを長期間、円滑に走らせるためには、下記に挙げるコンテンツマーケティングの主な目的を、あらためて確認することが大切です。

<コンテンツマーケティングの主な目的>

  • 見込み顧客を集め、購買への説得をすること
  • 顧客との長期的なつながりを維持すること

そして、以下の3点をすり合わせて設定します。

<コンテンツマーケティングを始める上で必要な設定>

  • 誰に向けたコンテンツなのか
  • どんな付加価値をターゲットに提供するのか
  • コンテンツを通してユーザーは何を得られるのか

以上の3点が設定できたら、さらに具体的にKGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)のほか、予算、体制、チャネルの選別などを最初に決めておきます。
「初心を忘れる」と、振り返って検証をすることもできません。スモールスタートという意味では、ある程度は見切り発車をしても構いませんが、後々軸がぶれないためにも、最低限の基軸となる初期設定は必ずしておきましょう。

離見の見:ユーザーファーストの視点を持つ

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世阿弥は言います。

「離見の見(りけんのけん)にて見るところは、すなわち、見所同心の見なり」

世阿弥は、観客の立場から己を見て、初めて己の姿を見ることができるということです。

これは見ている人の、それぞれの心々に存在する「花」というものである。さて、そういう風に時に応じて変異する花、そのいずれを本当の花とすべきなのであろうか。せんずるところ、ただその時々に応じてもっとも適切なものを用いることを以て「花」と知るべきなのであろう。

「すらすら読める風姿花伝」(林望著・講談社)より

この引用を言い換えると、「コンテンツが花であるかどうかは観客(ユーザー)が決めることであり、その到達を目指して努力や工夫を怠ってはならない。そうすれば、観客(ユーザー)やその場に合わせたコンテンツを提供することができるようになり、観客(ユーザー)の心に花を咲かすことができる」ということになるでしょうか。

これこそが、ユーザーファーストです。発信者側の「いいところ」だけを見せようと一方通行の情報を提供していても、ユーザーファーストにはなりえません。
どんなメディアでも、ユーザーがどう思っているかという視点を持って、離見の見で俯瞰して自分を見ることがコンテンツ制作に必要なことだといえるでしょう。

コンテンツマーケティングにおいてPDCAが「離見の見」にあたる

では、自分を離見の見で見るには、どうすればいいのでしょうか。世阿弥は、「目前心後(もくぜんしんご)」という言葉を用いています。これは、「眼は前を見ていても、心は後ろに置いておけ」という意味です。つまり、「自分を客観的に外から見る努力が必要」だといっているのです。

これはまさに、コンテンツマーケティングでいうPDCAにあたります。PDCAとは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」を繰り返すことで、業務や施策を客観的に考察して、継続的に改善していく手法のひとつです。

コンテンツの良し悪しを主観的に定義することは非常に難しいですが、PDCAというフレームワークを設けることで、コンテンツをどう改善、どうアップデートしていけばいいかという指針が見えてきます。そのため、長期戦となるオウンドメディアの運営には、このPDCAサイクルが欠かせません。
コンテンツマーケティングのような継続的に作っていくコンテンツを評価するときには、指標にした数字を見ることで、自分たちがどこにいるのかを確認し、次の方針を決めます。これが、PDCAの役割です。

PDCAを採用するメリットは、主に2つあります。

ひとつは、行動指針が明確になること。最初にKGIとKPIを定めることで、目指す指標ができるので、やるべきこととやらないことの行動指針が明確になります。

もうひとつは、検証を通して改善に必要なことが明確になることです。立てた目標と進捗を見比べることで、何が足りないのかが明確になります。不足している部分を改善し続けていくことで、より良いものを生み出していくことができるというわけです。

最初にKGIとKPIを設定しますが、KPIは運営の途中で都度変わっていく可能性もあります。長期運営にあたっては、その時々によって、テーマ、トーン、文脈、タイトルなど、具体的なコンテンツの内容を変えていく必要が出てくることは十分あります。
しかし、最初の初期設定さえしっかりしていれば、今なぜ変更しなければならないか、足りないものは何かなど、その根拠や理由も抽出できるので、途中での軌道修正や微調整も、決して的外れにはならないでしょう。

600年変わらないコンテンツ制作の鉄則

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世阿弥は、コンテンツがユーザーファーストであるべきだという信念を持っていました。だからこそ、能は少しずつ変容を遂げながらも、600年以上を経た今日まで、日本が誇る伝統芸能として生き残ってきたのでしょう。

能のオーナー兼プロデューサーでもあった世阿弥は、能の存続のためにはどうしたらいいかを常に考え続けていました。観客との関係、人気との関係、組織との関係など、すべての関係性は変化していくものと考え、その中でどのように芸を全うするのかということです。これは、現代社会のビジネスにもあてはまります。「風姿花伝」は、厳しい生存競争を勝ち抜くための戦術が記された書ともいえるのです。

世阿弥の「風姿花伝」は、「能=コンテンツ」「観客=ターゲット」「人気=エンゲージメント」と変換して読めば、現代の企業やコンテンツ制作者にとっても、きっと多くのヒントを与えてくれるに違いありません。

著者紹介

成田 幸久(なりた ゆきひさ)
成田 幸久(なりた ゆきひさ) コンテンツディレクター(コンテンツマーケティング戦略支援・制作支援)

AMEX会員誌「IMPRESSION」や「ワイアード」日本版、JAL機内誌「winds」などで副編集長を務めた後、眞鍋かをりなどの著名人ブログをプロデュース。ほか、「ギズモード・ジャパン」創刊ディレクター、セブン–イレブンとヤフーの共同事業メディア「月刊4B」編集長、オウンドメディアのアドバイザリー支援など、ウェブメディアの企画・運用など実績多数。著書に『愛されるWebコンテンツの作り方 』がある。

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