LINE谷口マサトが語る、コンテンツマーケティングの歴史と4つの視点

LINE谷口マサトが語る、コンテンツマーケティングの歴史と4つの視点

LINE株式会社のチーフプロデューサー・谷口マサト氏は、長年コンテンツマーケティングをリードしてきた立役者の一人である。新しい広告の形をさまざまな表現手法で打ち出し、ネット業界に一石を投じてきた。広告を楽しめるコンテンツに変換させる、その独特の発想と手法は、ネットメディアやコンテンツ制作に携わる者に多くのヒントを与えてくれている。

谷口氏は「4つの視点」がネットコンテンツのカギを握ると考え、動画コンテンツをはじめまだ誰も踏み込んでいない領域に挑んでいる。彼が考える次世代のコンテンツとは何か?

現在進行形で進化・変貌を遂げる谷口式コンテンツの在り方について、話を伺った。

谷口氏が制作してきた「全力コラボニュース」では、さまざまなタイアップ企画が展開されている。

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予算14万円から始まった「シェアされる広告」

――タイアップ広告企画の「全力コラボニュース」を立ち上げた経緯をお教えください。

最初に始めたのは2011年ですね。元々は真面目な広告を作っていましたが、いくらきれいな広告を真面目に作っても、ユーザーが反応しなければネットだと意味がないな、と感じたのが始まりでした。

SNSの普及によって、企業視点で作られた広告は無視されるようになりました。反対にユーザーが楽しんでツッコめるような広告であれば、広告であろうとシェアされる。今だと常識ですが、当時は非常識でした。

ターニングポイントになったのは、2013年の「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」でした。これが非常に拡散されて、当時はコンテンツマーケティングという言葉もまだ黎明期でしたし、「なぜ広告なのにシェアされるのか?」と不思議がられました。まだ珍しかったんですね。

――この記事は、映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」のパロディでしたよね。当時、一般企業でこういうおもしろコンテンツを受け入れる土壌はありましたか?

当時はなかなか難しかったですね。映画会社のようなエンターテインメント業界は、理解もありますし、企画も通りやすかった。今ではさまざまな会社がおもしろコンテンツをやってますよね。

制作費をそんなに割けなかったので、「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた!」は、予算14万円くらいで作りました。東京から大阪への交通費も込みの金額です(笑)。テキストと写真の組み合わせはコストパフォーマンスが良いんですよね。

利用環境の変化から動画コンテンツが台頭

――谷口さんが作るコンテンツは、テキストと写真にはじまって、GIFアニメ、漫画、動画へと表現方法のバリエーションを増やしています。現在は動画に注力されていますが、どのような理由があるのでしょうか?

新しもの好きなんですね(笑)。もうひとつは、ユーザーの利用環境がどんどんリッチになってきているので、それに対応してきたということ。今は次のフェーズに行くために、動画をやっているという段階ですね。

LINE株式会社のチーフプロデューサー・谷口マサト氏。

――広告の出稿主からも動画をやりたいというニーズは増えているのですか?

そうですね。年々増えています。動画を配信する広告枠も増えていますし、一方でCMの流用ではない、オリジナルコンテンツへの要望も多くなっています。ネットはブランド広告に伸びしろがあって、そこは動画と相性が良いでしょうね。撃つ玉(コンテンツ)の威力を増していくのと、その玉を配信するリーチ力を最大化してきましょうと。

――威力のある玉とは具体的にどんなコンテンツですか?

情報量ですね。良いコンテンツって、時間あたりの情報量が多いコンテンツのことなんですよ。例えば2017年に制作した「ワンチャンワンドキ!JK用語でJKの1日を再現してみた」は、洋画の字幕のようにJK用語に字幕解説をつけた「二重字幕」で構成しました。例えばJK用語の「マジ卍」という字幕の下に「ホントに?」という翻訳文を表示しています。

従来の字幕よりも2倍の情報量があるので見ている人は驚きます。まず驚きがあって、シェアしたくなるのが良いコンテンツです。最近は単発ではなく、シリーズで動画を展開できないかと思っています。

――動画でシリーズ化する場合、どのくらいの頻度で公開しているのですか?

最近企画したのは、のんさんに主演を務めていただいた「LINE NEWS」初の連続ドラマ「ミライさん」ですね。10分程度の1話完結で毎週1本、5回シリーズでやりました。再生数も非常に多く、話題にもなったので、あらためてシリーズ動画はSNSと相性がいいんだなって思いましたね。

――「ミライさん」は、どんな経緯で連ドラとしてシリーズ化されたのですか。

「ミライさん」は、“エクスペリメンタルプロジェクト”という、シリーズ動画を「LINE NEWS」上で配信するプロジェクトの第1弾です。

視聴数は800万回再生超えで、話題数だと6万以上のツイートがあり、様々なメディアで取り上げてもらえました。作品自体の満足度も84%でした(アンケートで視聴者の84%が「この作品が好き」と回答)。なにより「見て元気になった」という声が多くてうれしかったです。

 

テレビとネットが融合する時代の到来

――テレビとネットの映像の違いについてどう思いますか?

今は、テレビの映像文化とネットの動画文化が歩み寄ってきていますね。テレビは熱心にネットの文脈・作法というのを知ろうとしていますし、我々もテレビの映像制作のノウハウを学んでいる段階ですね。

――融合していくようなイメージですか?

そうですね。ネット動画に特化したプロダクションもどんどん出てきているので、自ずとスマホに最適化された動画文化が作られていくでしょうし、作っていきたいですね。

――スマホが普及して、何が一番大きく変わってきていると思いますか?

被写体との距離感は確実に近くなっていますね。スマホの写真はアップが多いですし、ネット自体がインタラクティブなものなので、昔のコンテンツと比べると、出演者とユーザーとの距離感がどんどん近くなっている。距離が近くなるとコンテンツの見せ方がまったく変わります。

テトリスのように永遠に終わらないコンテンツが理想

――谷口さんは漫画コンテンツの制作では原作もされていますが、動画でも脚本を書かれているのですか?

動画でも、特にドラマは基本的に漫画と変わらないと思っています。前述の「ミライさん」も、基本的な設定や原案を企画しました。どんなコンテンツであっても「キャラクター」「ストーリー」「テーマ」「世界観」、4つの視点で作ることができますし、これは漫画の基本も同じです。

――4つの視点について、もう少し詳しく教えてください。

キャラクターは人間の欲望や動機を反映したものです。視聴者の「本当はやりたいこと」を代わりにやってくれる人ですね。ウェブコンテンツは単発のコンテンツが多いのであまり論じられていませんが、シリーズ化する場合はキャラクターが非常に重要です。これがないとコンテンツを量産できません。

ストーリーは、謎やトラブル、対立構造を盛り込みます。テーマは、コンテンツで伝えたいメッセージです。世界観は物語の舞台設定ですね。

 

コンテンツ制作における4つの視点
  • (1)キャラクター:人間の欲望や動機を投影する
  • (2)ストーリー:謎やトラブル、対立構造で構成する
  • (3)テーマ:伝えたいメッセージ
  • (4)世界観:物語の舞台設定

 

――具体的に4つの視点をどのようにコンテンツに落とし込むのでしょうか。

「ミライさん」を例にあげると、新しい価値観のミライ(娘)と古い価値観のフルキチ(父)を対立させています。性格を対立構造にすれば、永遠に2人はケンカするので話が沢山作れます。物語の基本は喧嘩と和解です(笑)。

ゲームのテトリスみたいに永遠に終わらないように作るのが理想ですね。パズルゲームは1回解くと終わっちゃいますが、量産させることに成功したのがテトリスです。漫画も昔は読み切りが主流の時代があったのですが、週刊誌でキャラクターを活かすことで量産化に成功しています。キャラクターが愛されれば、ストーリーは後からついてきます。

ネットコンテンツの未来を占うシリーズ動画

――「キャラクター」「ストーリー」「テーマ」「世界観」の4つの視点でコンテンツを作るということですが、それ以外にウェブならではの注意点はありますか。

ウェブの場合は、それに加えて違和感というか、引っかかりがないと難しいですね。ユーザーは大量のコンテンツに接しているので普通だと見られません。企画性がもっと必要になってくるんです。一瞬で「なんだこれ?」と思わせないといけないんです。

――ネットではさらにSNSでの影響、拡散も意識しないといけないですよね。

そうですね。ただ、SNSでの拡散ばかり意識していてはいけない。バズるだけのコンテンツは、どうしても一過性で終わってしまうので。そこは導入としつつも、「どう奥行きを作るか」というのは悩ましいところです。

もう少し厚みのあるコンテンツを作る上で、そのひとつの試みがシリーズ動画でもあるんです。単発の動画だと、やれることに限界があります。シリーズを重ねて「番組」として認知されないと影響力に限界がある。

――谷口さんは、ネットのコンテンツの未来図をどう描いていますか?

直近だとやはりシリーズ動画による動画の番組化ですね。長い目で考えると、VR(バーチャルリアリティ)をどうするのかという話もありますが、VRも映像の延長上にあると思うので、根本的には時間あたりの情報量をどう増やしていくかという話ですね。

これまでテキストと写真にはじまって、GIFアニメ、漫画、単発動画、シリーズ動画と作ってきましたが、やっていることは一貫しています。いかに情報量を増やすか?というトライ&エラーの繰り返しです。エラーを繰り返すと落ち込みますが(笑)。長い目でみれば、情報量増えてるよね?と思わないとやっていけない。

――ウェブならではの表現、コンテンツや広告のあり方はどうなっていくと思われますか?

今あるテレビ番組は、すべてスマホ番組に置き換えられると思っています。ドラマの場合、「ミライさん」は10分ちょっとの尺でしたが、もっと短くてもいいと思っています。SNSとの接点を考えると、地上波のドラマって1話1時間なのがもったいなく感じます。ひとつのツイートで終わってしまう。

もっと細切れにすれば、SNSとの接点も増えるので、シェアされやすくなります。ネットに適したドラマや動画の作り方があると思うんですよね。

深さと広さ、コンテンツのジレンマ

――今年の10月、サイバーエージェントの「AbemaTV」が大きく番組改変したのですが、それまでのネットテレビらしいマニアックな番組が減って、地上波テレビっぽい万人ウケしそうな番組が増えた印象でした。コンテンツの深さと広さは、テレビとネットでどのように変わっていくと思いますか?

おもしろい話ですね。深さと広さというのは、永遠のテーマだと思っています。今までネットのコンテンツは、深さをテーマに作ってきたわけです。ネットでウケるのは、マニアックなコンテンツが多かった。その一方で、視聴者をどう誘導するのかも含めて、広さを考えていかないと先がない。

「ミライさん」の舞台の「未来の生活」ってちょっとマニアックなんですよね。そこで深さを表現し、ホームドラマという形式で広さを狙ってみた、ということですね。「深くて広いコンテンツってなんなんだ?」ってのはこれからも悩ましいポイントだと思います。

コンテンツづくりはリサーチが9割

――谷口さんがコンテンツづくりで大事にしていることは何でしょうか?

アシスタントには「リサーチが9割」と言っています。まずリサーチしてみて、どのようなコンテンツがあるのかを把握します。どういう傾向があるかを調べて、その逆をやると面白いものができる。これまでやってないことは何だろうという視点で考えるようにしています。

――ただ企業だと、前例がないことをやってみるのは難しいというジレンマもあると思いますが。

仮説が必要だと思います。「これまでやってきた傾向」について説明して、その逆張りをすることを伝えます。あとはこれまでの実績で「信頼してください」と言うしかない(笑)。でも、成功したからといって2匹目のどじょうは狙わない方がいいです。やっても成功しない。ネットの場合はユーザーが飽きるのは早いですから。2匹目はいないんです。いてくれれば楽なんですけどね(笑)。

――今後、ネットのコンテンツはどうなっていくと思いますか?

これまで長年やってきて、いろんな人がネットでコンテンツを作るようになって嬉しいです。

この間、長年一緒に仕事をしてきたヨッピーさん主催の「Webメディア忘年会2018」に行ってきたんですが、ウェブ編集者やウェブライターが150名いましたからね。 2011年はほとんどいなかった。「デイリーポータルZ」の編集長の林雄司さんと、「オモコロ」を運営するバーグハンバーグバーグ社長のシモダさんと私の3人で、バカな広告を作るぞって決めたんですよ。その記念講演を多摩川の河原でしたんですが、そのときは誰も聞いてくれる人がいませんでしたからね(笑)。

遅い歩みでしたが、着実にネットコンテンツの作り手と予算は増えています。もちろん私もただのプレイヤーの一人に過ぎませんが、これまでも楽しい時代だったし、これからも楽しい時代になるんだろうな、と予感しています。

 

谷口マサト(たにぐち まさと)

LINE株式会社チーフプロデューサー。横浜国立大学を卒業後、空手修行のため渡米。帰国後、ウェブ制作会社、IT系コンサル会社を経てライブドアへ。現在はLINEでコンテンツ企画を担当する。著書に「広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門」、電子書籍「コンテンツマーケティングの新常識」などがある。

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編集者情報

大澤 心咲
大澤 心咲
新卒でアクセンチュア株式会社を経て、2018年ナイル入社。
コンサルタントとして大手企業SEO戦略策定・コンテンツマーケティング支援を担当。
現在はナイルのマーケティングとセールスの統括マネージャーとして従事。
著書:「ひとりマーケター成果を出す仕事術

監修者情報

ナイル編集部
ナイル編集部

2007年に創業し、約15年間で累計2,000社以上の会社にマーケティング支援を行う。また、会社としても様々な本を出版しており、業界へのノウハウ浸透に貢献している。(実績・事例はこちら

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