シド・フィールドの三幕構成【コンテンツづくりの三原則 第9回】

シド・フィールドの三幕構成【コンテンツづくりの三原則 第9回】

オウンドメディア運営において、コンテンツづくりは最大の肝です。「コンテンツづくりの三原則」では、毎月1つのコンテンツづくりのテーマや目的を取り上げ、そこに紐づく3つのトピックを深掘りしていきます。

第9回は「シド・フィールドの三幕構成」について解説します。

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今やストーリーなしで企業は成長しない

企業がユーザー(消費者)に情報を提供するとき、インパクトや強い印象を与えて共感してもらうためには、ストーリーが欠かせません。
人は基本的に、ストーリーのない情報を記憶することが苦手です。120分の映画のあらすじを語ることは簡単にできても、具体的なセリフや出演者すべての名前は簡単に覚えられません。人は、何も起こらない事実や無機質な情報には、すぐ退屈します。
取扱説明書や商品スペックの羅列に心を動かされることはないし、記憶することも困難です。しかし、幼い頃に一度読んだだけの童話のストーリーは決して忘れません。

ストーリーは人の心を動かし、記憶に残るものです。だから、人に何かを伝えるときには、ストーリーが欠かせないのです。ストーリーは心を動かすスイッチであり、伝えたい情報をユーザーの心に刻む記憶装置となります。

では、人びとを惹きつけて心を動かすストーリーを作るには、どうすれいいのでしょうか?

そんな問いにシンプルな回答を提示したのが、ハリウッドの脚本家・プロデューサーのシド・フィールド氏です。
フィールド氏は、数々の大ヒット映画を題材にストーリーの書き方を「シド・フィールドの脚本術」(フィルムアート社)で理論化しました。その中で核となっているのが「三幕構成」です。同書は映画の脚本を書くための指南書ですが、映画に限らず、ドラマ、小説、マンガなど、すべてのストーリーの構築に参考にされています。

 

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現在、ハリウッドで最も影響力を持つといわれている脚本家のロバート・マッキー氏は、映画業界のバイブルと呼ばれる著書「ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則」(フィルムアート社)を出版。マッキー氏は、この本でビジネスや宣伝、広告の分野にストーリーテリングの手法を応用するという「ストーリーノミクス」理論を提唱しています。
マイクロソフトやナイキ、ペプシコーラ、メルセデス・ベンツといった大企業が、マッキー氏のストーリーノミクス理論を取り入れて、広告戦略を展開していることで知られます。

 

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日本でも、一橋ビジネススクールで教授を務める気鋭の経営学者・楠木建氏の著書「ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件」(東洋経済新報社)で、企業におけるストーリー戦略の重要性を提唱し、20万部を超えるベストセラーとなっています。
本書では、「ストーリー」という視点から、究極の競争戦略と競争優位、その背後にある思考のパターンの本質を、スターバックス、アスクル、アマゾン、デルなど、多くの成長企業の事例を挙げながら解明しています。

 

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エンターテインメントに限らず、今日のビジネスにおいてストーリーがいかに重視されているかの証左だといえるのではないでしょうか。

シド・フィールドの三幕構成はヒット作の条件

今日では、多くの成長企業のマーケティングにストーリー戦略が欠かせないものとなっていますが、その原点となったのがシド・フィールドの三幕構成だといってもいいでしょう。

シド・フィールドの三幕構成の内訳は、「第一幕(状況設定)→第二幕(葛藤、対立、衝突)→第三幕(解決)」となります。

第一幕(状況設定)

第一幕では、状況設定と問題の提示をします。状況設定とはいつ、どこで、誰がといったストーリーの設定が説明されるパートです。
「昔むかしあるところに、おじいさんとおばあさんがいました」というのが状況設定となります。そして、そこで何かしらの問題が発生。主人公は悩み、あるいは窮地に追い込まれます。彼らはどのようなキャラクターか、どのような関係か、彼らが何をするストーリーなのか、彼らの住む世界はどのようなものかといったことが、第一幕で設定されるというわけです。

第二幕(葛藤、対立、衝突)

第二幕では、問題の解決へ向けて行動を起こします。
主人公は窮地から逃れようとしますが、壁にぶちあたり、さらなる窮地に追い込まれることに。ここで、主人公はたび重なる困難を乗り越え、目的を成し遂げようとします。主人公の目標が定まることによって葛藤、対立、衝突といった障害を乗り越えることが求められ、主人公は苦難を克服しようと、再び立ち上がります。

第三幕(解決)

第三幕では、第一幕で出された問題の答えが明かされます。
主人公とほかのキャラクターは、自分たちの本当の姿を見しだします。精神的に成長した主人公は、振りかかる最大の試練に勝利し、すべての物事が良い方向に運ぶように。そして、主人公は失くしたものを取り戻し、みずからの弱点も克服。こうして、ストーリーに解決をもたらすのが第三幕となります。

「半沢直樹」「愛の不時着」「鬼滅の刃」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」など、最近の大ヒット作や、皆さんのお気に入りの映画や漫画、小説などにあてはめてみてください。
多くの作品が、この三幕で構成されていることがわかります。

 

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この三幕構成のストーリーが、まさに企業がユーザー(消費者)に提供すべき情報の基本構成となるのです。

三幕構成を活かしたマーケティング本

2020年、シド・フィールド氏の三幕構成をうまく使って、ユーザーの課題に答え、ソリューションを提供するマーケティング本が上梓されました。

緊急事態宣言が発令されたさなかの4月に刊行された、横田伊佐男氏による「迷えるリーダーがいますぐ持つべき1枚の未来地図」(日経BP)です。
横田氏は数多くの経営者と接し、戦略立案や商品開発を手掛けてきた人気マーケティングコンサルタントです。本書はマーケティング本でありながら、一人の主人公が「1枚の未来地図」を描くことで苦境を脱し、成功を手にするまでのストーリー仕立てとなっています。

 

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以下、ストーリーのあらすじとなります。

“主人公はつぶれかけたレンタルビデオ屋の経営者、藤堂篤郎。倒産の危機の中、山奥で自殺をしようとした藤堂は、一人の男と出会う。経営学の教授というその男は藤堂に地図の描き方を指南する。そして、藤堂は従業員を巻き込んで、「1枚の地図」を描いていく。それにより、レンタルビデオ店は予想もしない驚く方向へと進んでいく…。”

本書は、苦境にあったレンタルビデオ店の社長が成長していくストーリーを軸にマーケティング論を展開するビジネス書なのですが、驚くことに本書で描かれたこのストーリーを、実際に具現化した人が現れたそうです。

著者の横田氏は「会議HACK!」(会議室.com)のインタビュー記事で語っています。

「「ビジネス書を読んで泣いたのは初めて」という方がいらっしゃいました。群馬で5店舗くらいの居酒屋を出している飲食店の経営者の方でしたが、アルバイトを含めて100人くらい雇っていたそうです。ちょうど本が出たのが緊急事態宣言が出された4月初頭で、外出自粛が徹底されていた頃です。そんな状況で4月以降の売り上げが10割減になってしまった。売上ゼロです。「ピンチはチャンス」という言葉もあるし、「明けない夜はない」と思いながらも、毎晩、星空を眺めて涙を流す日々だったらしいんですね。でも僕の本に出会い、「これではいけない!と勇気をもらった」と言ってくれたんです」

ストーリーを三幕構成に分類してみると

それでは、本書のストーリーをあらためて、三幕構成に分類してみましょう。

<第一幕(状況設定)>
・主人公はつぶれかけたレンタルビデオ屋の経営者、藤堂篤郎
・藤堂は倒産の危機の中、山奥で自殺をしようとした
・しかし、その山奥で偶然経営学の教授という男と出会う
・その男は藤堂に地図の描き方を指南

<第二幕(葛藤、対立、衝突)>
・教授の教えに従って「1枚の地図」が出来上がっていく
・しかし、従業員たちはなかなか思うように動いてくれない
・藤堂と従業員たちの方向性やスピード感に齟齬が起きる
・従業員たちも藤堂に対して不信感が募る

<第三幕(解決)>
・藤堂はリーダーとして果たす役割が間違っていたことに気づく
・自分の過ちを認めて従業員に謝る
・具体的目標から具体的戦術を描くことで新規事業が始まる
・レンタルビデオ店は驚く方向へと進んでいく
・発想の転換による新規事業が成功

先程ご紹介した、「迷えるリーダーがいますぐ持つべき1枚の未来地図」のストーリーを読んで涙を流したという飲食店の社長さんは、さっそく本書に記された「1枚の未来地図」にならって、倒産しかけている自社の立て直しに着手することを決意しました。
彼が「1枚の未来地図」を描こうと決心した原動力となったのは、本書のストーリーに「感動して涙を流した」ことだったのです。

この社長さんが直面したコロナ禍による緊急事態宣言で倒産の危機という現実は、「迷えるリーダーがいますぐ持つべき 1枚の未来地図」で描かれたストーリーより過酷な状況だったともいえます。

では、社長さんが描いたストーリーを三幕構成に分けてみましょう。

<第一幕(状況設定)>
・主人公はコロナ禍でつぶれかけた飲食店の社長
・コロナ禍の緊急事態宣言で売上がゼロになる
・毎晩夜空の星を眺めながら泣く日が続く
・そんな倒産の危機の中、一冊の本と出合った
・「1枚の未来地図」によって地図の描き方がわかるようになる

<第二幕(葛藤、対立、衝突)>
・本書の教えに従って「1枚の地図」が出来上がっていく
・従業員たちにハッパをかけるが、なかなか思うように動かない
・社長と従業員たちの方向性やスピード感に齟齬が起きる
・従業員たちも社長に対して不信感が募る

<第三幕(解決)>
・社長はリーダーとして果たす役割が間違っていたことに気づく
・自分の過ちを認めて従業員に謝る
・具体的目標から具体的戦術を描くことで新規事業が始まる
・飲食店は社長みずからも驚く方向へと進んでいく
・発想の転換による新規事業が成功

まさに、「迷えるリーダーがいますぐ持つべき 1枚の未来地図」で描かれたストーリーの再現です。

この社長さんは、本書が提唱している「10X(テンエックス)」という理論を実際にやってみようと思ったそうです。ゼロになった売上を元に戻すのではなく、あくまでも「10倍にするビジョン」を描き始めたのです。
店に来てもらうという「待ち」ではなく、「攻め」に出ようと居酒屋をやめることを決断。コロナ禍の影響が小さいと思われる「前橋 ドライブスルー・マルシェ」という新事業を社員全員で考え出したのです。
ここまでに至る道のりは三幕構成で記したとおり、決して平坦なものではありませんでした。

しかし、「良いストーリー」には必ず人の心を動かし、行動を起こさせる力があります。この社長さんが従業員たちの心を動かして納得させるストーリーを描かなかったら、決して成功はしなかったのではないでしょうか。

具体的戦術が明確に決まったこの会社は、駐車場を借りてゴールデンウィークに1日300食という目標を立て、結局目標の2.5倍を売り、多くのメディアに取材されるまでに話題となりました。
わずか1ヵ月で新事業に転換して、成果を残したのです。

みずから「ストーリー」を紡ぎ出すことで、苦境から1ヵ月で売上を2.5倍にした「前橋 ドライブスルー・マルシェ」。
横田氏は言います。

「彼が「ビジネス本を読んで初めて泣いた」ということは、それくらい切羽詰まった危機感があったということだとは思います。星空を眺めながら途方に暮れていたとき、たまたま本を読んだことで、即座に動こうと決めて、未来を社員と描き、スタッフが実行してくれ、たまたまゴールデンウィークという目標設定があった」

ストーリーの主人公はユーザー

あなたがビジネスにおいてユーザー(消費者)に自社の魅力を伝え、商品やサービスを購入してもらいたいと考えているとします。
その場合、ストーリーの語り部はあなた自身です。しかし、ストーリーの主人公はあくまでもユーザーです。

あなたは、主人公であるユーザーを第一幕(状況設定)から第三幕(解決)へ導くメンター(助言者)なのです。ユーザーが「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカー(主人公)なら、あなたはヨーダ(メンター)であり、ユーザーが「鬼滅の刃」の竈門炭治郎(主人公)なら、あなたは煉獄杏寿郎(メンター)なのです。
また、先程ご紹介した飲食店の社長さんがユーザーなら、マーケティングコンサルタントの横田伊佐男氏はメンターとなります。

多くの企業は自社のアピールに躍起になるあまり、一方的な主張をしがちです。
ユーザーが自分の求める情報を好きなように取捨選択できる時代、闇雲に一方的な自己主張だけをしても、ユーザーの耳には届きません。もちろん、心も動かされないし、共感もしません。

つまり、あなたがユーザーに認知され、商品やサービスを購入してもらいたいと思ったら、まず相手の立場に立って「心が動くストーリー」を用意し、メンターにならなければなりません。
あなたの役割は、ユーザーが描くストーリーのサポートをすることなのです。

同じ悩み、同じ葛藤、同じ苦しみ、同じ喜び、同じ幸せ――ユーザーのストーリーとあなたのストーリーが同期したとき、ユーザーはあなたのメッセージに耳を傾け、そこに共感が生まれるのです。

 

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