メタボの三原則【コンテンツづくりの三原則 第17回】

メタボの三原則【コンテンツづくりの三原則 第17回】

オウンドメディア運営において、コンテンツづくりは最大の肝です。「コンテンツづくりの三原則」では、毎月1つのコンテンツづくりのテーマや目的を取り上げ、そこに紐づく3つのトピックを深掘りしていきます。

第17回は「メタボの三原則」。コンテンツを制作するにあたって意識しておきたい「副詞」「修飾語」「思考動詞」の三原則について解説します。

 

数字が明かす名文の法則

アメリカを代表する作家の一人に、アーネスト・ヘミングウェイがいます。文学に興味がない方でも名前は聞いたことがあるでしょう。ヘミングウェイは、「老人と海」や「日はまた昇る」などの作品で知られ、1954年にノーベル文学賞も受賞しています。ヘミングウェイの特徴は、なんといっても研ぎ澄まされたシンプルな文体です。

そんな文豪を生んだといわれるのが、ニューヨークの出版社に勤めていたマックス・パーキンズという編集者。彼の編集の信条は、「削れ!削れ!」だったそうです。パーキンズはコリン・ファース主演の映画「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」でも有名になったので、ご存じの方も多いかと思います。映画の中でも、作家が嫌がっても容赦なく原稿を削るシーンが出てきます。

 

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では、読まれる文章にするために、どうやって無駄な文章を削って筋肉質の文章にすればいいのでしょうか。
無駄な脂肪がついた「メタボ文章」を避けるために、とても参考になる一冊があるので紹介したいと思います。

「数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで」(ベン・ブラット著、DU BOOKS)という、往年の名作を統計学の視点から分析した本です。主に、20世紀のアメリカ文学を中心に分析しています。

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同書は、さまざまな視点から文章の良し悪しを分析しているのですが、中でも「副詞」「修飾語」「思考動詞」の3点については、編集者やライターにとっても非常に参考になります。

副詞を減らせ

 

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副詞とは、文の中で名詞以外の言葉の意味を詳しく説明する語で、動詞、形容詞、副詞を修飾します。「すっかり」「ゆっくり」「はっきり」「悲しげに」「真剣に」「すやすやと」「大抵」などが副詞です。

「数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで」によると、名作と呼ばれる作品ほど、英語の副詞にあたる「-ly」がつく単語が少ないという統計が出たそうです。「-ly」がつく副詞とは、「すっかり」(completely)、「ゆっくり」(slowly)、「はっきり」(clearly)、「悲しげに」(sadly)、「まじめに」(seriously)、「大抵」(usually)といった言葉があたります。

例えば、動詞の「怒る」に副詞を加えてみます。

すごく怒る。

「すごく」は、「怒る」という動詞を修飾する副詞です。英語でいえば「very」「really」「extremely」「awfully」など。

今度は、形容詞の「美しい」に副詞を加えてみます。

マジで美しい。

「マジで」は、「美しい」という形容詞を修飾する副詞です。英語でいえば「seriously」「really」など。

つまり、著者のベン・ブラットによれば、一流の作家になればなるほど「すごく」とか「マジで」といった副詞は使わないということを意味します。

では、これらの副詞の使用が最も少なかった作家は誰でしょう。

著名な作家15人ごとに、1万語ずつの「-ly型副詞」の使用回数を少ない順からランクづけすると、1位は80語でヘミングウェイ、2位は81語でマーク・トウェインという結果になったそうです。

ヘミングウェイの文章は、ジャーナリスト出身らしく極限まで無駄を省いた簡潔な文体で知られますが、それが副詞の少なさであらためて証明された形になっています。
マーク・トウェインは「トム・ソーヤーの冒険」「ハックルベリー・フィンの冒険」などの作品を残した作家で、ヘミングウェイに「あらゆる現代アメリカ文学は、マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィン』と呼ばれる一冊に由来する」と言わしめました。同じく、ノーベル賞作家のウィリアム・フォークナーは、「(マーク・トウェインは)最初の真のアメリカ人作家であり、我々のすべては彼の相続人である」と賛辞を送っています。

ちなみに、副詞の使用が少ない順番でいうと、下記のようになります。

<副詞の使用が少ない作家ランキング>
1位 アーネスト・ヘミングウェイ
2位 マーク・トウェイン
3位 エイミ・タン
4位 ジョン・スタインベック
5位 カート・ボネガット
6位 ジョン・アップダイク
7位 サルマン・ラシュディ
8位 スティーヴン・キング
9位 チャールズ・ディケンズ
10位 ヴァージニア・ウルフ

ノーベル賞作家やピューリッツァー賞作家など、そうそうたる文豪が並びます。

さらに興味深いのは、同じ作家の作品の中でも、代表作と呼ばれるものほど、副詞が少ないという結果まで出ているのです(ただし、ヘミングウェイの「老人と海」は、例外的にほかの作品より副詞が多いそうです)。

8位にランキングされたスティーヴン・キングは、「キャリー」「シャイニング」「ショーシャンクの空に」など、作品が映画化されることも多いモダンホラーの王者です。彼自身、著書「書くことについて」(小学館)で、「地獄への道は副詞で舗装されている」と副詞の乱用を戒めています。

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なぜ副詞を多用しないほうがいいのか

副詞は、主に動詞や形容詞を詳しく説明したり強調したりする目的があるので、副詞をまったく使わないで形容詞や動詞だけで表現するのは難しいことかもしれません。
ただ、安易に副詞を使うのは文章を冗長にしたり、安っぽい表現にしたりするので、できれば副詞を使わない言い回しを考えてみたほうが表現の幅が広がります。

中には、「アウト・オブ・サイト」や「ジャッキー・ブラウン」などの映画でも知られる犯罪小説のベストセラー作家、エルモア・レナードのように、「突然(suddenly)を絶対に使ってはならない」と断言している作家も。

では、副詞をなぜ「絶対に使ってはならない」のでしょうか。もちろん、「絶対」というのは作家ならではのレトリック(技法)だと思いますが、それくらい意識しておいてちょうどいいといえるかもしれません。

例えば、私たちが日常会話で頻繁に使う副詞を思い浮かべてみてください。

本当に
めっちゃ
マジで
普通に
個人的に
正直
わりと
ぶっちゃけ

こうした副詞は、フランクな日常会話ではよく使われますが、文章を読んでいてこういった副詞が頻繁に出てきたらどんな印象を抱くでしょうか。きっと洗練された文章とは程遠い印象を抱くでしょう。
程度の差こそはあれ、副詞を多用することで文章に締まりや研ぎ澄まされた洗練さは失われます。ほとんどが不要で無駄な副詞だと気づくに違いありません。

作家という文章のプロたちは、「すごく」や「マジで」といった副詞を使わずに、いかにして「すごく」や「マジで」を表現できるかを考えます。そうすることで、読む人の想像力を膨らませたり、感情の幅を広げたりして、薄っぺらく、画一的なイメージにならないように細心の注意を払うのです。

修飾語を避けろ

修飾語とは、その意味や内容を詳細に説明するために用いられる語の総称です。

修飾語には連体修飾語と連用修飾語があります。連体修飾語とは、格助詞「私の(妻)」、形容詞「美しい(花)」、形容動詞「きれいな(風景)」など、体言を説明する語をさします。
連用修飾語とは、形容詞「激しく(踊る)」、形容動詞「きれいに(飾る)」、副詞「とても(美しい)」などのように、用言を説明します。

「数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで」によると、修飾語は過去100年で3分の1に減っており、特に「とても(very)」の減少は顕著のようです。つまり、時代の潮流として、修飾語はどんどん使われなくなってきています。

洗練された文章は、「美しい花」を「美しい」という修飾語を使わずに花の美しさを表現します。なぜなら、「美しい」といっても、人によって受け止め方や美しさの基準は読者によってさまざまだからです。
「美しい花」といっても、「可憐な美しさ」なのか、「華麗な美しさ」なのか、「はかない美しさ」なのか、「妖艶な美しさ」なのか。どんな「美しさ」を伝えたいのかによって、表現を工夫する必要があるのです。

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スティーヴン・キングは「書くことについて」で、修飾語を乱用してしまう書き手の心理を、「自分の文章が明快でないため修飾語を入れないと読者に言いたいことが伝わらないのではという不安から来ているのだ」と、自身の経験を踏まえながら説明しています。

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また、マーク・トウェインは、「形容詞は削れ。完全にとまでは言わないが、大半を削れ―残った形容詞には価値がある」と、教え子にあてた手紙で書いているそうです。

無駄な修飾語を省けば、要旨が伝わるすっきりとした文章になる

さて、ここで修飾語を乱用した文章の一例をご紹介します。

自分たちを格下に見ているさまざまな医師たちに激しく憤る看護士たち。「医師の命令は絶対だしね」「しょせん看護士は医師の黒子だし」と常々愚痴る職場の面々の台詞には、社会人の悲哀を強く感じる。とても優秀な人物ばかりの医療現場でも、看護士が我々と同じく多くの不満や激しいストレスを抱えて葛藤していることをしみじみと教えてくれる。

上の文章で余計な修飾語はどれでしょうか。あっても間違いではありませんが、なくてもさほど全体の伝えたい要旨に影響はない語彙です。盲腸のようなものですね。

答えは「さまざまな」「激しく」「常々」「強く」「とても」「多くの」「激しい」です。

これらの修飾語を全部削除してみましょう。

自分たちを格下に見ている医師たちに憤る看護士たち。「医師の命令は絶対だしね」「しょせん看護士は医師の黒子だし」と愚痴る職場の面々の台詞には、社会人の悲哀を感じる。優秀な人物ばかりの医療現場でも、看護士が我々と同じく不満やストレスを抱えて葛藤していることを教えてくれる。

これらの修飾語がなくても意味が通じるのはもちろん、無駄な修飾語が省かれたことによってすっきりしたのではないでしょうか。これが小説のような長い文章であればもちろん、要旨だけを簡潔に伝えたいビジネスなどの文章では、なおさら無駄を省く必要があります。

また、修飾語は長い文章になった場合、どの言葉にかかるか曖昧になりがちなので、使用する場合はできるだけ修飾する語彙の近くに置く必要があります。

例えば、下記の文章の「できるだけ」は、どこにかかる修飾語でしょうか。

できるだけ、彼女といっしょに仕事が組めるように努力したい。

これでは、修飾語の「できるだけ」が何を修飾(説明)しているのかわかりません。

(1)彼女といっしょに仕事が組めるようにできるだけ努力したい。
(2)彼女とできるだけいっしょに仕事が組めるように努力したい。

(1)にすれば「努力したい」にかかりますし、(2)にすれば「いっしょに」にかかります。

しかし、「できるだけ」を省いて、(3)のようにしても問題ない気もします。

(3)彼女といっしょに仕事が組めるように努力したい。

どうしても「できるだけ」を強調したければ、前後の文脈でそのことを伝えることもできるでしょう。このような修飾語が多くの文節で乱用されると、混乱のもとになるということです。

思考動詞を使うな

男性 テレワーク

思考動詞は、文字どおり人が思ったり考えたりすることを表す動詞です。「思う」「憤る」「覚える」「願う」「忘れる」「愛する」「望む」「驚く」などです。

「数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで」では、ブラッド・ピット主演の映画で有名な「ファイト・クラブ」の著者、チャック・パラニュークのエッセイから下記のようなくだりを引用しています。

「登場人物が何かを知るかわりに、そこで読者がそれを知れるように詳細を示さなければならない。登場人物が何かを求めるかわりに、そこで読者にそれを求めさせるように描写しなければならない」

そして最後に、「示せ、語るな」と結んでいます。

示せ、語るな

未熟なライターが、記事の締めくくりに使いがちなのが思考動詞です。

「~と願う」「~と思う」「~したい」「~すべきだろう」「~に違いない」といった思考動詞の常套句で、安直に締めくくる原稿が結構多いのです。ひどいときは「~と思うのは私だけだろうか」「~と思うがいかがだろうか」といった陳腐な常套句で締めくくられた文章も時々見かけます。

例えば、下記のAとBは、いずれも「保育士不足問題」をテーマにした記事の締めくくりの事例です。

A:
「保育士の働き方」は、保育士として復帰する方法の一部である。正社員だけでないさまざまな働き方で、潜在保育士が復帰しやすい社会になればと思う。現在保育士である人には、妊娠・出産後の復帰方法のイメージに、本記事の内容を役立てていただけたら幸いである。

B:
保育士という仕事に社会がリスペクトを払わないで、保育の質を保てというのも酷な話だ。長時間労働、休みが取れないこと、社会的評価の低さなど、保育士不足は給料の問題だけではなく、総合的、複合的な根深い問題なのだ。
保育士が経済的にも精神的にもぎりぎりまで追い詰められている。この状況に改善の見込みがないまま、幼保一律無償化が10月に実施される。

どちらが洗練されているか、一目瞭然ではないでしょうか。

「示せ、語るな」に照らし合わせれば、Aは語り、Bは示しているといえるでしょう。

文章力アップのための名著

以上、メタボ文章のダイエットに役立つ、「副詞」「修飾語」「思考動詞」の省き方についてご紹介しました。

今回紹介した「数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで」は、英語を前提とした文章術ですが、日本語に置き換えても十分参考になるし、読書好きの方には非常に興味深い内容になっています。
ほかにも「バカな文章の定義」「男女で違う言葉」「常套句」「最悪の書き出し」「売れるほど長くなる」など、さまざまな切り口で文章の質や傾向を紹介していますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

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ナイル編集部

編集者情報

ナイル編集部

2007年に創業し、約15年間で累計2,000社以上の会社にマーケティング支援を行う。また、会社としても様々な本を出版しており、業界へのノウハウ浸透に貢献している。(実績・事例はこちら

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